隠すほどの爪なら無い

自分自身の、この自我というものが消滅することへの覚悟はできた。苦しみからの開放・・・。だけど、だけどあと少しだけ、続きが見たい…!

【統合医療】「うつ」がいつまでも治らない理由

「治らない理由」シリーズ第2段です(シリーズ化する気があったのか!?)。

最初に断っておきますと、ここの内容はほぼ「『うつ』がいつまでも続くのは、なぜ?」のパクリです(読みながらの引用ではありませんので正確には引用ではありません)。

「うつ」とは、ものすごくザックリ定義すると「長期間続く激しい気分の落ち込み」です。最近では、こういう典型的な「うつ」のことを「メランコリー型うつ病」と言うそうです。

従来の「うつ」治療において、主役は「抗うつ剤」と言う薬でした。

「うつ状態」のマウスを殺して、脳をすりつぶして調べると「セロトニン」という脳内物質が少なかったと言う研究結果が元になり、「セロトニン仮説」という仮説が唱えられました。

いわく「脳内のセロトニン不足が『うつ』の原因ではないか?」という仮説です。そこで、脳内の「セロトニン」を増やしてあげる薬があれば「うつ」も治るのではないかと、セロトニンを増やす薬「抗うつ剤」が開発されました。

正確には「セロトニン再取り込み阻害薬」。脳内でのセロトニンの利用効率を上げて見かけ上セロトニン量を増やす薬です。原理的には二日湯と同じです。脳内でセロトニンの合成を直接促す薬はまだ発売されていません。

この「抗うつ剤」は爆発的なヒット商品となり、一時は「ハッピードラッグ」とまで言われるほどもてはやされ、多くの精神科でうつ病患者に投与されました。また、今でも投与され続けています。実際に、「抗うつ剤」のおかげで助かったと言う患者も、数多くいます。

しかし一方で、抗うつ剤は数多くの問題も抱えていました。その中でも重大だったのが「殺人や自殺と言った致命的な副作用」です。

当初は「精神障害者ゆえの特異行動」と言った見方が支配的でしたが、次第に抗うつ剤の副作用ではないかと言う見識が出てきました。

と言うのも、「うつ」と言うのは最初にも書いた通り「激しい気分の落ち込み」が主訴であります。激しく気分の落ち込んだ人が、自殺や殺人と言った大変な気分の高揚を必要とする行為を行うでしょうか?

一部の精神科医は、この「殺人や自殺」は、「うつ」の症状ではなく「躁(そう)」の症状と考えた方が、むしろ適切ではないかと考えました。

「躁病」というと「たりらりら~」と言った感じの、高揚感や万能感に支配された(社会的にはともかく個人的には)ハッピーな人の病気、と言うイメージがある人が多いと思います。

しかし、私自身体験しましたが「不快な躁状態」と言うものが実際には存在します(混合状態といいます)。

これはやはり仮説ではありますが「うつ」と「躁」と言うのは「熱い」「冷たい」のように相反するものではなく、2軸に存在し混在し得るものだと言うことです。

以下に、従来の躁うつに対する認識と、新しい躁うつに対する認識「気分障害スペクトラム」を図示します。

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メランコリー型うつ病の人間が自殺や殺人を犯すと言うことは、ありえません。そもそも、自殺や殺人に必要な気分の高揚が、メランコリー型うつ病の人にはないからです。

このうつ状態に、気分の高揚が加わったものが「混合状態」です。人が自殺や殺人を犯すのは、この「混合状態」においてこそではないかと言うのが、米国臨床医における最近の主流の見方となってきております。

抗うつ剤は、気分を高揚させる作用を持つがゆえに、典型的なメランコリー型うつ病の気分を高揚させ、上記スペクトラムで言うと「点を上方向に移動させる」バイアスをかけます。結果、混合状態を導き、自殺や殺人衝動を起こさしめると言うことです。

これは、もちろん仮説の域を超えませんが、少なくとも実際に臨床医が診てきた患者の例に基づいて書かれている本の内容で、一定の説得力を持ちます。

そして、提唱されているのが「抗うつ剤」から「気分安定薬(Mood Stabilizer)」への治療のシフトです。
一言でいうと、気分安定薬には、上記スペクトラムにおいて点を上方向ではなく中心方向へ戻す作用を持っています。

ただ「気分安定薬」は「抗うつ剤」よりも種類が少なく、投与管理が必要であったりと、結構面倒な薬です。あと「躁うつ病」「躁病」の治療に用いられてきたため、「キ○ガイが飲む薬」という偏見があったりして、患者自身があまり飲みたがらない事が多いこともあって、なかなか普及していません。

しかし、気分安定薬は(抗うつ剤より)かなり昔から用いられてきている薬で、大量の臨床例があり、その中には自殺や殺人と言った深刻な副作用はほぼありません。

仮に気分安定薬の効果がまったくなかったとしても、抗うつ剤を飲むことによるリスクを鑑みると、第一選択薬は気分安定薬であるべきと言うのが著者の結論です。

特に、患者はおおむね躁とうつの両方のエピソードを持っているが、うつのエピソードは医師に話すが躁のエピソードは話したがらない(本人は「好調」と勘違いしている)、と言う点には納得できます。

「うつ」に苦しんでいる、と思っている方は、上記のような観点で自分自身を見直してみるとよいはずです。
客観的に見れないときは、日記をつけるなどが地味ですがなかなか良いです。良心的な精神科医では、日々の睡眠時間(躁状態では短眠・うつ状態では長眠になる)・日記をつけさせるところもあります。

森田療法も交換日記が基本ですが、世界的に評価されるものはこういう地味なところに着目したものが多い気がします。読むのが大変ですが、大変な事を地味にやってくれるのが「良い医師」です。