隠すほどの爪なら無い

自分自身の、この自我というものが消滅することへの覚悟はできた。苦しみからの開放・・・。だけど、だけどあと少しだけ、続きが見たい…!

GALAPAGOSがダメだった最大の理由

シャープの立ち上げた電子書籍サービスおよびその端末名称である「GALAPAGOS」が潰れかかっています。と言うか、事実上つぶれたと言っても過言ではないでしょう。
いまはかろうじて存続してはいますが、Kindleが上陸すればさらに厳しい状況となることは疑念の余地がありません。

GALAPAGOS端末自体は、もはや生産自体を行っておらず(もともと受注生産なので廃止表明はおそらく当面なし)では電子書籍プラットフォームに特化しての生き残りを図っているかと言うとそうでもなく、相変わらず全世界シェア7割と言われるiPadやiPhoneなどのApple端末への対応はしない、ダウンロードは購入後1年間しか保証されない(つぶす用意中?)など、まったくと言っていいほどやる気が感じられません。

なぜGALAPAGOSは失敗したのか。一番の理由は「リスクを取ることを嫌った」というその一点にあると私は思います。

企業が大きくなると、確実に儲けることを求められます。リスクがわずかでもあることは却下。安全に事を運ばない限り、サラリーマン社長は決裁してくれません。サラリーマン社長が「確実に儲ける手段など無い」という商売の基本を理解しているのかどうか、私には知る由もありません。

結果、ジリ貧になると言うのが、最近の大企業のパターン化しています。いままでは、そういうリスクは協力会社(下請け)に丸投げして本体は無傷でいられたのですが、このパターンが何年も繰り返されて弱者いじめが続けられて、結果そのようなリスクを引き受ける余力のある協力会社がどんどん減っていくことになります。

もはや、リスクの押し付け先もない。最後の押し付け先がホンハイグループなのか、それは私にはわかりません。

GALAPAGOSのデビューしたころに書かれたであろう、このような記事を見つけました。

量販店店頭では購入できない!? 「GALAPAGOS」の思い切った販売戦略
GALAPAGOSをあえて直販方式のみにした理由を、シャープの中の人はこう語ります。
シャープのネットワークサービス事業推進本部・新井優司副本部長は、「GALAPAGOSは、単に端末を売るという販売モデルではなく、サービスを含めて提供する製品。これまでの端末以上に、ユーザーオリエンテッドな端末として提供したいと考えている。シャープとお客様がより密接な関係を構築し、シャープ側からもさまざまな情報を発信し、利用を支援し、活用面での利点を提供していきたい。新たな端末を提供するために用意した、新たな販売モデルである」と位置づける。
一見もっともらしく聞こえるのですが、直販と言うのはメーカーにとってはもっとも原始的な販売方式で新しくも何ともありません。特に営業する必要のない商品ならともかく、まだ買っていない潜在顧客が質問したい場合どうすればよいのでしょうか?少なくとも「メーカー直販だから顧客と密接な関係が築ける」と言う点に関しては、全く説得力がありません。
一見Appleの模倣に見えますが、これはとてつもない劣化コピーです。Appleは日本ではSoftbankという販売店を経由してしか販売していないわけですが、ユーザーと密接な関係を築き得ています。エヴァンジェリストなどの認定制度を設けてユーザーへの布教活動も怠りません。
つまりは、Softbankがシャープ携帯の大手顧客であると言うこともあり、携帯端末と直接競合する形でのリリースは出来ないし、かといって量販店で販売してもらうには荷が重いしiPadやノートPCと直接競合すると勝ち目がない、消去法で直販とならざるを得なかったというのが正直なところでしょう。
ユーザーとの緊密な関係を構築するには、当然、メーカー直販の方が優位である。日本のPCメーカーにも、販売方法をメーカー直販に限定して、ユーザーサポートの充実ぶりを前面に打ち出す仕組みを構築している例がある。GALAPAGOSが目指す日本のユーザーが求める手厚いサポートを実現する上では、最も適した販売モデルといえるかもしれない。
上記は記者の主観で書かれているのですが、BTO(Build To Order)と言った高度な受注生産システム(デル・モデル)を構築して直販をしているPCメーカーと同列に語るには、明らかに無理があるでしょう。
そのほかに、直販モデルの一般的なメリットとして、在庫管理がしやすく、店頭における不良在庫が発生しにくい、量販店同士の価格競争などを背景として発生する価格下落が起きにくいという点がある。また、流通関連コストも削減できる。

シャープにとって初めてのサービス融合型端末であり、結果として販売台数を予測しにくいこと、また戦略的な価格設定を行なったことなどを含めると、こうした点も直販モデルに限定した理由の1つと言えそうだ。
ここが決定的なのですが、つまりiPadと競合して在庫の山となる事を恐れたと言うのが直販方式の最大の理由であり、GALAPAGOS失敗の理由です。製造業では「在庫=悪」とみなされますが、実は在庫を減らすと言うことは機会損失リスクを増やすことに直結します。
これはさおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)に書いてあった知識なのですが、セブンイレブンでは「在庫より機会損失こそ悪」と言うポリシーで経営がされています。いつ行っても欲しいものがある「コンビニエント(便利な)ストア」が、もし「在庫は悪だ」とか言って仕入れを最小限にしてしまったら、いつ行っても欲しいもののない「インコンビニエント(不便な)ストア」になり下がってしまいます。

つまりは「在庫削減」=「機会損失リスク向上」という視点の欠落であり、会計学ではものすごく基本的な部分における失敗なのです。これが過剰な「在庫=悪」思想の行きつく先です。

なぜこのような基本的な事がわからないのか不思議かもしれませんが、大企業に勤めているとわからなくて当然と言うことが分かります。いま大企業の幹部になっている人は、恐ろしいことに「バブル期の恩恵をめいっぱいこうむってあまり努力せず成りあがったサラリーマン」なんです。

要は経営の知識も会計学の知識もありません。したがって「在庫を減らせば固定費が軽減するから経営が改善する」とかアホな事を平気で言ってしまったりします。経営や会計はバランスの類であって「在庫を減らしたらいい」「売り上げを増やしたらいい」「現金がたくさんあった方がいい」などという一辺倒の方策ではどうこうできない「生き物」のごときものです。さもなくば「経営」のなんと簡単な事でしょうか。会計士も中小企業診断士もお役御免です。

たとえば現金が1000億円くらいあったりしたとします。一般人の感覚なら置いておけば年間10億円くらいは利子がつくから遊んで暮らせるとかなるわけですけど、大企業だとそんなことをすると株主から「運用してもっと儲けろ」と怒られてしまうわけです(これを減損リスクと言うそうだ)。なので、現金があったらあったで運用方法を考えないといけません。そして、リスクのない運用方法などありません。

結果、そんな知識のある人は大企業の社内には一人もいませんから(少なくとも決裁権限のある人間にはいない)、アッサリAIJみたいなのに騙されてえらい焦げ付かされたりとか言うのは近年の定番の悲喜劇と化しております。

企業の経営と言うのは、そういう絶妙なバランスを保ち続けることであり、リスクを完全に忌避してしまうのも、リスクを正当評価せず投資を行うのも、どちらもいけないのです。

リスクを忌避したい大企業がよくやるのが天下り官僚の受け入れです。もちろん国税や警察のOBも受け入れちゃいます。取り締まっている側を懐柔するのだから究極のリスク回避かもしれません。もちろん、その分の割は日本国民が負うことになるわけです。

おかげで、上記のような記事を書いてくれる「御用記者」も得られます(あまり奏功してませんが・・・)。

パナソニックがシンガポールに脱出するかもしれないと言う噂がありますが、日本の製造業はなぜバカみたいに高い法人税にもかかわらず生産拠点を海外に作らないのでしょうか?それが、上記の「究極のリスク回避」をしてしまった代償です。日本国官僚を受け入れた以上、国外脱出など許されません。

さらに残念なことに、このリスク回避には致命的な欠点があります。それは、国際間競争にはまったく無力であるという点です。

経産省を抱き込んでデジタル化の名目で無理やり高い液晶テレビを売りつける商法は日本国内では華麗に成功しましたが、その間にグローバル市場では他企業(サムスンとか)が力をつけてしまって、国際価格競争力が絶望的なまでに失われる結果となりました。これもグローバルで購入対象として検討してもらえる「機会を損失した」事が大きな要因です。

官僚と言う「リスク回避」を受け入れて安心していたため、本来のリスクに対して鈍感になっていたのです。官僚を抱き込むリスク回避は一種のドーピングみたいなもので、どこかでしっぺ返しが来るとも言えるでしょう。

リスクを回避するあまりこれ以上逃げられないところにシャープは追い込まれている。GALAPAGOSの失敗はそれを象徴している。そのように私は見ています。

どうか、昔のように失敗を恐れない「目のつけどころがシャープでしょ」なシャープに戻ってほしいものと思います。