隠すほどの爪なら無い

自分自身の、この自我というものが消滅することへの覚悟はできた。苦しみからの開放・・・。だけど、だけどあと少しだけ、続きが見たい…!

ニセ医療批判に大義はない

このブログやTwitterで、NATROM氏、locust0138氏、chochonmage氏といった「標準医療クラスタ」の人たちと論戦を繰り広げてきました。

そして、私の中では一つの結論に至りつつあります。それが、標題に書いたとおり「ニセ医療批判に大義はない」ということです。

医学的・科学的な立場というのは、批判精神が必要であるといわれます。

なので、この人たちのような「ズレた」ニセ医療批判も割とすんなり受け入れられてしまうようです(お友達のお医者さんとかとの間で「イイね!」し合ってるだけなんじゃないのといううがった見方を私はしていますが)。

ただ、科学の立場を冷静に振り返ると、そこで言う「批判」というのは自分自身に対して投げかけられるべきものなのです。たとえば、「ペニシリン」という抗生物質を発見したアレクサンダー・フレミングという人は、ある菌を培養しようとしていたのですが、その菌が青カビに侵されてやられるということをずっと経験してきました。

最初は「くそ、また失敗か」と捨てていたのですが、よく見ると青カビの周りの菌は皆死んでいました。そして、「青カビには菌を殺す力があるのではないのか?」と思い至り、ペニシリン(青カビが分泌する菌を殺す物質)を発見しました。

フレミングは「実験に失敗したシャーレ=ゴミ」という自分の思い込みを疑い、そして世紀の大発見をなしたわけです。

このように、まっとうな医学に批判精神が必要というのは、思い込みによる「良い発見を見逃すリスク」を減らすためのお題目だと、私は思っています。

で、標題に戻って「ニセ医療批判」というのがどうしてダメなのかを書きます。

つまり、端的に言うとニセ医療批判というのは「だれかが考えた仮説」を否定するものにすぎないからです。

上記で言うならフレミング以外の人が「青カビに菌を殺す力などあるはずがない」と批判するようなものです。
ちょっと工夫すれば、事実とは異なるこの主張にそれなりのデータをでっちあげ説得力を上げることも可能です。
いうまでもなく、この「批判」は科学の大義である「批判精神」とは似て非なるものです。あくまで、それまでの科学・医学の趨勢を借りて他社の研究結果を貶め悦に至りたいという、下賤な動機しか私には感じられません。

さて、ニセ医療批判をする人は末期がんの患者が「ニセ医療」に走って死期を早めたとか、経膣分娩困難な妊婦に無理やり自然分娩をさせようとして子供を殺したとか、エキセントリックな例を引用してニセ医療を貶めようとしています。

しかし、そのような例は「標準医療」でも数多起っています。

最近で言えば、子宮頚がんワクチンの接種による女子中学生の死亡事故です(因果関係は明確にはされていませんが、健康な女子中学生が理由もなく突然死する可能性は極めて低いでしょう)。

これに対して標準医療クラスタがどういう言い訳をするのか見ていたら、「公衆健康のためにはワクチンを接種するほうがよいことは明らかである」(100万人に対する死者が減る)というものでした。

上記の仮説の蓋然性についてここでは議論しませんが、正直違和感を感じます。
花の女子中学生がワクチンを打って突然死するのと、30や40のオバサンが子宮頚がんで死ぬのとは、まるで違うことだと私には感じられるからです。

上記の突然死をことさらに取り上げてワクチン自体を批判したり、場合によっては現代医療すべてを批判する団体もあるようです。

医療サイドに失われているのは、「患者視点」ではないかと思います。

以前NATROM氏が標準医療は画一的で個別の医療ができない、というニセ医療側からの批判に対して標準医療のほうがより個別である、と反論していました。

事の真偽はともかくとして、個別医療が進歩しているというのは結構なことです。

しかし「個別医療が進歩している」ということは、今までは画一医療だったということです。

標準医療を信奉するのは構いません。しかし、もしそうなら「ニセ医療」ではなく「過去の標準医療」を批判するほうがいいのではないでしょうか?

たとえば、最近では塩分の摂取量は重度の腎臓患者以外にはさして問題はなく、血圧上昇との因果関係もないということが分かっています。しかし、昔の医者は少し血圧が高いと「塩をとるな」の1点張りでした。

私はコレステロールで「卵をとるな」と言われましたが、最近では卵の摂取量とコレステロールの上昇の間にも有意な関係は否定されています。

こういう「過去の標準医療」を一つ一つ丁寧に、批判していくのが地味ですが医師として、人として正しい道ではないかと思います。

ニセ医療批判はエキセントリックで人気がとれます。しかし、それはニセ医療でお金もうけをたくらんでいる人たちと同じ穴のむじなだということを忘れてはいけません。